日野原重明「母親の、魔法のような手」

子どもが軽いけがをしたときのおまじない。患部を優しく撫でて「痛いの痛いの、飛んで行け〜」と、まるで「痛いもの」をつかんだようにして、それをどこかへ投げて見せる。すると痛みが少し和らぐのか、子どもの表情がふっと和らぐ。

私が目指すのは 母親の、魔法のような手。
 痛いところに 置かれただけで、
 気持ちは落ち着き 痛みは薄れた。
 医療の原点は、この「手当て」にこそある。

「日野原重明 いのちと勇気のことば―いかに生きるか・何を残すか」
日野原重明・著 こう書房 より引用

もずねこ病気を治すため、毎日息子に触れて診てくださった医師や看護師さんの手。その中でも、かずきを担当してくれた看護師さんは私よりも年下で独身なのに、子どもをよく理解している方だった。処置をするのも、遊ぶのもとてもうまかった。子どもに触れる時の彼女のキラキラとした笑顔、やさしい手。彼女の手はまさしく、この魔法の手だった。

息子だけではない。入院に付き添っていた私も、彼女の手当てを受けていた。彼女のやわらかくあたたかい手が、私が気づかないように心の傷口にそっと触れ、痛みを取り除いていたのだった。そして、私の不安を和らげてくれた医師や看護師さんたちの言葉もまた、私にとって魔法の手であった。