晴佐久昌英「わたしのなかのくじら」


わたしのなかのくじらはゆったり大きい
わたしの海の底でゆうゆうと眠る
わたしの気持ちがどれほど波立っても
わたしのなかのくじらは穏やかに眠る

足の小指を椅子にぶつけて腹が立ったり
愚かな言葉で人とぶつかって頭に来たり
そんな苛立ちをまわりにぶつけて心乱れたり
それでもくじらは静かに目を閉じたまま

わたしのなかのくじらは気高く美しい
わたしの闇の底で月のように発光する
わたしの一日がこんなにもけがれているのに
わたしのなかのくじらは神々しく輝く

病室で痛みと闘い市を恐れる夜
病室で絶望と闘い失った人を思う夜
牢獄で後悔と闘い許されぬ刑罰を待つ夜
それでもくじらは堂々と眠ったまま

わたしのなかのくじらはある日目を開く
わたしの寿命がつきてわたしが倒れ
わたしがわたしの海に帰るとき
わたしのなかのくじらはゆうゆうと泳ぎだす


晴佐久昌英・著「だいじょうぶだよ」より引用

イラスト:渡辺宏 ジグソーパズル 300マイクロP 午后の水平線 S73-520

この詩を心の支えにして、お子さんの看病をしていたママさんのことを思い出す。

本の紹介

「星言葉」で多くの人々を励まし反響を及ぼした著者の、さらなる優しさと苦しみへの共感から生まれ出た詩の数々。「初雪」「病気になったら」「贈りもの」「クリスマスの夜は」など、32の福音詩を収録する。(Amazonより引用)
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