発達段階の特徴とプレパレーション

プレパレーション(プリパレーション)とは

プレパレーションは、単に行われる医療処置などについてあらかじめ子どもに説明をしておくというのではなく、子どもがこれから直面する、体験する事態によってもたらされるであろう心理的混乱に対して、説明などをすることによりネガティブな反応を最小限に、あるいは緩和されるように工夫し、子どもがその事態にその子なりに向かい、乗り越えられるように子どもの対処能力、頑張りを引き出していくようなケアをし、子どもの健やかな発達を支援していくことです。

その子どもに必要なプレパレーションができたとき、子どもがもっている力、頑張りが発揮されます。その頑張りは子どもが疾病から回復する原動力・生きる力になり、子どもの病院での経験が否定的反応から肯定的反応になっていくのです。

3歳以前の子どもの発達特徴とプレパレーション

発達特徴

1歳半ころの節目を越えた子どもは、しっかりとスコップやバケツなどの道具を使って、水や砂、泥などに働きかけることで、その発達が育まれていきます。そして、これらの活動は、大人がかかわってくれるときほど持続し、自己運動を拡大します。

同じ頃、子どもは鏡や写真に写っている自分の姿が自分であることに気づきますが、「自分なる存在」にはまだ気づいていません。子どもが人格の主体としての自分の存在に気づくには、母親側からの愛情の大切さだけでなく、その子どもにとって母親との共生が思い意味を持つのです。

プレパレーション

母親は彼らを生活につなげてくれる重要な他者であり、そのかかわりのなかで、子どもは安心や安全を得ることができます。それゆえ、この時期の子どもへのプレパレーションは、母親へのわかりやすい説明と母親の気持ちにそったケアを最優先させることです。そのようなかかわりが、子どもへの安心感につながります。

3歳前後の子どもの発達特徴とプレパレーション

発達特徴

この段階の子どもは、歩き、走り、跳ぶ、蹴るなどの基本的な全身運動と手指の動作の力を身につけます。そして、子どもが本当に「自分なる存在」に気づくのもこの時期です。その気づきには、それまでの"重要な他者"(母親)との"共生感"と共に、自己表現の力となる"言葉"の獲得が不十分ながらも育っていることが関係しています。したがって、プレパレーションが可能になるのは、最低この段階からになります。 

「自分の人格」と「他人の人格」を意識しはじめ、自我を強く主張する時期でもありますが、その一方では4歳ころになると、他者からの規制にも対応する努力(調整行動、自制心)もするようになります。

プレパレーション

プレパレーションにあたっては、その子どもの生活経験に基づいて、ゆっくりと事実と現実を具体的に表現できる状況をつくることが大切です。

4歳半頃の子どもの発達特徴とプレパレーション

発達特徴

4歳半ころの子どもは、名詞、動詞、代名詞、助詞などを用いて、"話し言葉"を一応獲得します。その話し言葉を駆使し、遊びのなかで社会性を身に付け、特に「ごっこ遊び」を通して、人間社会の表現形式をわがものにしていきます。

プレパレーション

この時期の子どもは認知発達の特徴上、プレパレーションが難しい時期であり、多くの子どもが自分にとって本当のプレパレーションを提供されていないため、不安な状況に置かれてしまいます。わかりやすいプレパレーションがなされると、「本当は(お注射)はしたくないけど、(看護師さんに弱虫と思われるかもしれないから)我慢して注射をする」など、「誇り高き4歳児」の姿をみせる行動をとるようになります。

人形や紙芝居、絵本などを用いて、子どもが理解できる言葉を使って、ゆっくりとわかりやすくプレパレーションがなされると、彼らは必ず治療・処置に向かう力を発揮できるのですが、親や医師・看護師たちの多くは、その力はないと思っています。その物(人)を見て、手で触り、操作する(いじくる)間と質問に応えてもらえるという具体的な励ましの中で、多くの子どもは困難に立ち向かっていきます。

また、プレパレーションの場に母親がいてくれることも、それ以前の子どもとは異なる意味が加わってきます。子どもは自分の思いを十分に説明できる言語能力はまだ十分には獲得していません。そのため、それを医療者に対し代弁してくれたり、通訳してくれる"後ろ盾"としての母親を必要としています。

この時期の調整能力は、"我慢"としてしばしば観察されます。我慢している自分と、彼らにとって重要な他者(母親)も我慢しているという"共有者"がそばにいることで、子どもは大いに励まされるのです。医療者たちは、我慢している彼らを「おとなしい、理解している」と判断して、母親を子どものそばから離したり、"後ろ盾"や"共有者"としてではなく、"強制者"としての働きを課している場合が多いです。子どもたちにとってのプレパレーションを考える場合、医療者はこの時期にある子どもに対して、母親がそばにいることの大切さや発達へのいっそうの理解と配慮をしていく必要があります。

9〜10歳頃の子どもの発達特徴とプレパレーション

発達特徴

5歳〜7歳のころ、子どもは黙読や内緒話ができるなどの音声を伴わない言語活動を獲得します。そして、「9〜10歳の壁」といわれる節目の時期、子どもは本格的な書き言葉の世界に入ります。過去の経験をイメージ化し、整理し、書き言葉でもって他者との交流が可能になります。これまでの自分、これからの自分の視点でもって「自分なる存在」に気づき、反省し、新たなる飛躍を準備します。

プレパレーション

思考力のこのような質的変化は、子どもへのプレパレーションを比較的容易にします。しかし、現実の事物や事象に対して具体的に理解し、確かめられる範囲で論理的・因果的に思考できるということであり、プレパレーションは、あくまでも子どもの現実の生活経験から出発し、そこに戻るものでなくてはいけません。

思春期の子どもの発達特徴とプレパレーション

発達特徴

この時期は、自分自身の今後、いわゆる自分作りの第一歩を歩きはじめ、人格発達の節目として、最も重い段階にあります。11〜12歳に入ると、彼らは具体的な対象から離れて考えられるようになります。さらに13〜15歳ともなれば、具体的な諸関連を言語で一般化して認識します。

また、第二次性徴の発現は、性の自覚を契機に、ふんばり、悩み、人間らしい愛や怒り、喜びや悲しみを経験し、必死で「自分なる存在」を他者との関係で発見しようとする段階にあります。

プレパレーション

彼らは認知発達のうえでは大人と同じレベルに近づきつつあります。そのため、プレパレーションにおいても、病気には多くの原因があることを理解し、その原因を体内の器官や機能不全、不適応の関連からも理解することができます。13歳ころにもなると、考えや気持ちが体に影響することも理解することができます。しかし、彼らの感情は絶えず揺れ動いていることを重く心にとめておく必要があります。

プレパレーションにあたっては、一見、彼らは大人からのかかわりを避けつつも、本当の大人を求めていることを理解しなければなりません。また、自分を受け止め、その「自分なる存在」に共感を示してくれる重要な他者にしか、その内なる心の扉は開けないことをも、念頭に置かなくてはいけません。